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東京地方裁判所 昭和42年(ヨ)4671号 決定

東京都渋谷区大和田町九八番地

債権者 東京ヒルトンホテル株式会社

右代表者代表取締役 五島昇

右訴訟代理人弁護士 花岡隆治

右同 田宮甫

右同 向山義人

右同 鈴木光春

右同 鈴木孟秋

右同 中川広之

右同 右田政夫

右同 大杉和義

東京都千代田区永田町二丁目五七番地

債務者 アンソニー・クレッグこと ジエー・エー・クレッグ

右訴訟代理人弁護士 長島安治

右同 福井富男

右同 穂積忠夫

右同 中村誠一

右同 三ツ木正次

右同 田中徹

右同 佐藤哲夫

右同 牧野通晃

右訴訟代理人外国弁護士資格者 トーマス・エル・ブレークモア

右当事者間の立入禁止等仮処分申請事件について、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

債権者の本件申請を却下する。

理由

一  債権者の本件仮処分申請の趣旨は別紙記載のとおりである。

二  債権者東京ヒルトンホテル株式会社が、昭和四二年四月二〇日同社の総支配人である債務者ジエー・エー・クレッグに対し解雇の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。

三  そこで、債権者主張の右解雇の理由について判断する。

(一)  まず、債務者は債権者の再三の警告にも拘らず総支配人としての職務に精励しないのみか、債権者に損害を与えるような数多くの不信行為をなしたとの主張については、これを採用するに足りる疎明は存しない。

(二)  次に、債権者は次のように主張する。すなわち、債務者が債権者会社の総支配人として雇傭されたのは、債権者の親会社である申請外東京急行電鉄株式会社(以下東急と略称する)と申請外ヒルトン・ホテルズ・インターナショナル・インコーポレイテッド(以下HHIと略称する)との間の別紙物件目録記載の土地建物(以下本件土地建物と略称する)におけるホテル経営についての業務委託契約履行の一環として右HHIの推挙に基づくものであるが、右契約はその後のHHIの背信行為により解除されるに至り、債権者において自主的に右ホテルの経営をなすこととなったので債務者を解雇したものであるという。

確かに≪証拠省略≫によると債務者が債権者主張のような経緯によって雇傭されたことを認めることができる。しかし、債務者は右HHIの背信行為の存在を否定し、かつ右契約解除の効果につき種々争うので以下検討する。

四  まず、債権者の主張するHHIの背信行為につき判断する。すなわち、

(一)  右HHIは、昭和三九年東急の同意を得ることなくその株主構成を変更し、かつ商号ヒルトン・インターナショナル・カンパニー(以下HICと略称する)と変更したが、右行為は前記東急とHHIとの間の契約に違背する背信行為であると債権者は主張する。しかし、前掲≪証拠省略≫に照すと右所為が右契約に違背すると解することはできず、他に債権者の右主張を採用するに足りる疎明もない。

(二)  更に、HICは、昭和四二年二月二三日東急の同意を得ることなく、申請外トランスワールド・エアラインズ・インコーポレイテッド(以下TWAと略称する)の支配の及ぶ新会社を設立し、同会社に自己の有する一切の権利及び権益を譲渡すると同時に、HIC自身はTWAと合併する旨の契約をなしたが、右行為は前項と同じく前記契約第二六条の条項に違背する背信行為であると債権者は主張する。確かに、≪証拠省略≫によると債権者主張の合併及び権利権益譲渡を東急の書面による事前の同意を得ることなくなした事実は認めることができるが、しかし、前掲≪証拠省略≫によるとTWAとHICとの合併が、ヒルトンの世界的組織の利点を従来と変りなく活用し享受しようとの意図に出たものであり、更に、右意図を実現するためHICの全額出資による子会社を設立し実質的には同一の経営者によって、かつ、同一の運営方針に従って右会社が運用されるものであることを認めることができるから、前記業務委託契約第二六条によって保障されてきたところのHICを介し享受されてきたヒルトン組織による東急の利益も引続き維持されることに帰する。従って、前記HICの行為をもって、これが右条項に違背するものとなして右契約を解除し得ると解するのは相当でない。

(三)  従って、債務者の右契約解除に対するその余の主張に対して判断するまでもなく、右契約解除が有効であるとの債権者の主張は失当である。それ故に、右解除が有効であることを前提とする債権者の債務者に対する解雇の意思表示もこれまた効力を発生するに由ないものといわざるを得ない。

五  してみれば、本件仮処分申請は、その被保全権利として主張する債権者の債務者に対する本件土地建物の所有権に基づく妨害予防請求権は、債務者の解雇の有効を前提とするから、その疎明のないことに帰し、また、保証をたてることをもってその疎明にかえることも相当でない。よって本件申請を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 長井澄 裁判官 北沢和範 裁判官 山口和男)

〈以下省略〉

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